『 CLEAR & FOGGY 』

2013.5.3発行/A5/44ページ

「Halcyon Factory」 から発行したキリト×アスナ本第三弾。ゲストとして、たかつきさんとにゃんぞーさん参加。
今回のテーマは 「リア充」 です。

収録作品:「とある日のばつげーむ」たかつき
「心のリハビリ」にゃんぞー
「その壁はクリア可能か?!」空音美樹
「通りすがりの彼女」梶原千早


「その壁はクリア可能か?!」 by 空音美樹

 



「とある日のばつげーむ」 by たかつき



「通りすがりの彼女」 by 梶原千早

 こんな話がある。
 海外旅行先で置き引きにあった人が、ちょうど行き会った日本人旅行者に金を借りた。帰国したら返金するからと住所を尋ねると、その住所は自分と同じマンションの隣の部屋だった。
 買い物で訪れた店に居合わせたのをきっかけに、二人の女性が親しくなった。二人は、交流するうちに互いの出身地や家族に共通点が多いと気付いた。後に互いの母が従妹同士であるとわかった、
 前者はTVで見た再現ドラマ。後者はネットで読んだ記事。信憑性は不明だ。
 でも偶然というのは、わりとそこら辺に転がっているらしい。音沙汰なしになって久しい中学の同級生と街角でばったり顔を合わせるとか、電話をかけようとしたまさにそのとき当の相手からかかってくるとか、そんな偶然はオレ自身にも起こったことがある。
 だからこれも可能性としてはありえるわけだ。
 通り抜けようとしていた公園で見かけた少女が、とある知り合いに酷似していると気付いて立ち止まったとき、俺はそんなことを自分に言い聞かせた。正直なところ、ちょっとばかりパニックになっていたのかもしれない。なにしろ彼女は死んだものと思い込んでいたからだ。
 噴水を間に挟んで少し距離があったので、回り込んで近づく。植え込みに隠れて向こうからは見えない位置を選び、改めて観察した。
 十五メートルほど先、木蔭のベンチに座る少女は、間違いなく《閃光》だ。見えるのは俯き加減の横顔ではあったが、確信できた。
 端正な顔立ちやほっそりとした肢体に大きな変化はない。ただ、記憶にあるよりも少し大人びて、栗色の髪はさらに長く伸びている。どちらも二年分の違いだろう。
「二年、か」
 無意識に呟く。二年といっても、彼女を最後に見てから二年が経ったわけではない。アインクラッド第七十五層で《閃光》アスナの姿が四散するのを目撃したのは、昨年の十一月七日だ。ちょうど半年前になる。アインクラッドでの二年間に接していた彼女はアバターのため、外見に変化がなかっただけだ。
「ってことは二年半だな」
 自分で自分にツッコんで苦笑する。
 彼女とは、決して親しい間柄ではなかった。むしろ敵対関係に近かったかもしれない。向こうは《血盟騎士団(KoB)》の副団長で、こちらは《聖竜連合(DDA)》の総隊長だ。話すのはフロアボス攻略戦のときにレイドを組むときくらいだった上に、意見の相違で言い合いになる場合が多かった。加えて、オレが敵視していた《黒の剣士》と付かず離れず接していたのだ。どれほど美人でも、いい感情を抱くはずがない。
 それでも、七十五層のボス攻略後に見た一幕が、二人に対して別の感情を生じさせた。
(後略)