『 BLACK & WHITE 』

2012.12.29発行/A5/32ページ

ハルシオン・デイズの梶原千早さんとの合同サークル「Halcyon Factory」から発行したキリトとアスナのほのぼの本。
ゲストとして、にゃんぞーさん参加。

収録作品:「恋愛スキル上昇中?」空音美樹
「恋心と友情と」梶原千早
「つれづれオンライン」にゃんぞー


「恋愛スキル上昇中?」 by 空音美樹

 

「恋心と友情と」 by 梶原千早

 鏡を睨むように見つめていたアスナは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「……綺麗、だよね……」
 アスナは自分が美人であると自覚している。体型も細身ですらりとした肢体のバランスがいい。
 世に美人と讃えられる女優やスタイルの良さを誇るモデルらと比較し、美人顔の条件と理想体型の数値をネットで検索して確認し、さらに資料としてファッション誌から文化人類学の書物まであたって検証した上で、最終的に導き出した判断だ。仮に、在学していた中学校の全生徒やアインクラッドの全女性プレイヤーでミスコンを行えば、かなり上位に食い込めるだろうと思う。
 などと実際に口にすれば、即座に高慢女と判定されて同性からはハブられる結果となるだろう。もちろんそんなバカげたミスはしないが。
 検証なぞしたのは、中学二年生の夏休み中に、他校の女子生徒とちょっとした諍いを生じたのが発端だ。その子のカレシとやらがアスナに目移りしたとかで、彼女の怒りの矛先がアスナに向いた、というただの言いがかりだった。相手にするのもバカバカしくてぞんざいに応じたところ、相手から
「美人だと思ってつけあがるんじゃないわよ!」
 と怒鳴られたのだ。
 容姿については幼少期より絶えず周囲から賛辞を受けてきたものの、他人の誉め言葉を真に受けないよう母親に言い含められ続けたため、それまでのアスナは懐疑的だった。だがそのとき、自分に対して怒っている喧嘩相手がこちらを誉めるはずはないだろうと考えて、一つの疑問が浮かんだ。
「わたしって美人なの?」
 その純粋な質問が意図せず口から零れ出て、相手を余計に逆上させたのは苦い想い出だ。それはともかく、このときの命題から検証に至ったというわけである。
 その後に、美人である意義についても検証してみた。得た結論は、多少は第三者から優遇される場合もあり得るというだけで、さほどの価値は見いだせなかった。
 そもそもアスナにとって自分の価値を評価する基準は容姿ではない。
 中学三年生の晩秋までは、学校での優秀な成績と偏差値の高さがすべてだった。アインクラッドに閉じ込められて以降は、それが剣技の速さと正確さに変わった。このゲームに、この世界に、決して負けないために必要な能力こそが、《血盟騎士団(KoB)》副団長たる現在の彼女の矜恃となっている。
 学年十位以内の成績と偏差値七十をキープするには懸命に勉強するしかなく、スキルの熟練度やレベルを上げるには地道に経験値をかせぐしかない。いずれの場合でも容姿などまるで役に立たないのである。
 そして最近は、別の意味でさらに役立たないのをしみじみと実感するばかりだ。
 少しでも自分を綺麗に見せるよう、髪をカスタマイズしたり、メーキャップアイテムで薄化粧を施したり、いろいろと工夫してみた。しかしどれほどオシャレをしてみたところで、肝心のキリトにはまるでアピール材料にならないのだから。
 露出の高い服を着てみるという手を考えたことすらあったが、あまりに自分らしくない手段には抵抗を感じる。第一もしもそれでキリトがなびくとしたら、それはそれで失望しそうだ。
 キリトの注意を引くのはソードスキルしかない。そう結論づけるしかなかった。
 そしてアスナはこれまで以上に深夜のMob狩りに精を出すという、恋する乙女としてそれはどうよ、という方向に邁進している。
(後略)